労働基準法を知っておこう    その2


 労働基準法を知ると知らないとで、事業経営・労働人生が変わってきます。

8) 退職の証明
9) 金品の返還

10 ) 賃金支払い5原則
11) 労働時間

12) 時間外・休日労働(36協定)
13 ) 割増賃金

14) 年次有給休暇
15) 
就業規則等

労働基準法を知っておこう  その1



8)      退職の証明

 

 労働者が退職の場合において下記のことについて証明書を請求した場合には、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません。

 

 


     使用期間

     業務の種類

     その事業における地位

     賃金又は退職の事由(退職事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)


     解雇が予告された日から退職の日までの間において、労働者が当該解雇の理由について証明書を請求した時は、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません。

ただし、解雇の予告がされた日以後に、労働者が当該解雇の事由以外により退職した時は、当該退職日以降、交付する義務はありません。

     上記の証明書には、労働者が請求しない事項を記入することは出来ません。

「解雇事由は書かないでほしい」と請求した場合には、当該解雇事由を証明書に記入することはできません。

     この証明書の発行回数についての制限はありません。請求されれば何回でも交付しなければなりません。


     また、この証明書は雇用保険の「離職票」で代替することは出来ません。請求があれば、離職票とは別に交付する必要があります。

     たとえ懲戒解雇の場合でも、請求があれば交付する必要があります。



9)金品の返還



   使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があれば、7日以内に賃金を支払い、積立金・保証金・貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。(1項)

 前項の賃金又は金品に関して争いがある場合においては、使用者は、意義のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。


     賃金について、退職労働者の請求から7日以内に所定の賃金支払日が到来する時は、その所定の賃金支払日に支払わなければなりません。

     退職手当については、あらかじめ就業規則等で定められている支払い時期に支払えばよいとされています。



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10)賃金支払い5原則

原則



賃金は、通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定期間に、支払わなければなりません。

 

 

     労働者が賃金支払いを受ける前に賃金債権を他に譲渡した。
            



 この場合でも、使用者は直接労働者に賃金を支払わなければなりません。
(昭和43.3.12 小倉電話局事件)

     一定期日に支払うとは「毎月25日」とか「月末」といったように特定されている必要があります。ですから、「毎月第4金曜日」といったものは禁止されています。

     賃金の口座振込みの場合、賃金支払日の午前10時頃までには払い出しが可能となっていること。


いつの時代?

世の中にはあり得ないな、と思うことが間々ありますよね。
この給与を本人に直接支払う、ということに関しても、労基法で成文化された事由のひとつに「たとえ親であっても、子供の給与を横取りするな」という考えがあります。

(戦前は、わりとあったらしいですね。時代劇を見てても出てくるでしょう。親の借金のかたに身売りする娘の話とか)

 それなのに・・・
いまだにそうしている人がいると聞きます。

当人は給与明細さえ見たことがない、らしい。(経営者の子供)
自身がいったいいくらの給与なのかまったく知らない。月々小遣いとしていくらかもらっている程度。

30前後の子供に・・・
問題は双方にある・・・よねぇ。

子供が親を訴えることなんてない。そうタカをくくってるんでしょう。

やれやれ、です。

 





11)労働時間


使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を越えて労働させてはならない。

 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を越えて労働させてはならない。


 

法定労働時間は上記の時間ですが、下記の事業、事業の規模によっては特例として1週間に「44時間」までの労働が認められています。


事業の種類

事業の規模

特例時間


商業、映画演劇業(映画の製作事業は除く)、保健衛生業、接客娯楽業

10人未満

1週間に44時間。ただし、1日については原則通り8時間



       過労死、過労自殺の増加といった労働時間の延長(いわゆるサービス残業)による問題が多くなっています。


平成15年の兵庫県における労働基準法違反の状況においても、違反のトップは
「32条から40条」(労働時間等)が突出しています。


これらをうけ、行政(労働基準監督署)としてもこの11月(平成16年)を
「賃金不払い残業解消キャンペーン月間」として、賃金不払い残業の解消と適正な労働時間の管理に向けたキャンペーン活動を実施しています。この中で、全国共通のフリーダイアルを設置したりして、できるだけ摘発することを主眼においているようです。


また法定労働時間管理については平成18年度以降、より厳格に対処していく方針も打ち出しています。ですから、使用者として充分に労働時間の管理を徹底するように心がけてください。



       労働基準法第102条により、労働基準監督官には、労基法違反について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う権限が付与されています。


ですから、場合によっては逮捕、司法処分といった措置がありうることを知っておかれることも大事です。





12)時間外、休日労働(36協定)

・法定労働時間を超える労働、法定休日の労働は、原則としてさせることは出来ません。しかし、下記の要件を全て満たすことによって例外的に認められます。


     労働協約、就業規則等に定めがあること

     36協定の締結、届出(書面によること)

     割増賃金の支払い(後述)


 

36協定とは?

 

使用者

 


   


(書面による協定)届出要

労働者の代表者

(過半数労働組合、なければ、過半数代表者)

 

     この36協定を締結したことによって直ちに労働者に時間外労働、休日労働を行う義務は生じません。36協定はあくまでも免罰効果を得るためのものです。


(免罰効果・・・協定すれば、時間外労働・休日労働をさせても罰せられない)


 

36協定で定める事項

 


     時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由

     業務の種類

     労働者数

     1日及び1日を超える一定期間(1日を越え3ヶ月以内の期間及び1年間)についての延長できる時間又は労働させることができる休日

 

時間外労働の限度が除外される。


 パンフレット「時間外労働の限度に関する基準」にも掲載されていますが、延長時間の限度が適用されない事業、業務があります。

1)工作物の建設等の事業
2)自動車の運転の業務
3)新技術、新商品等の研究開発の業務
4)厚生労働省労働基準局長が指定する事業または業務(ただし、1年間の限度時間は適用されます)

これって、わりと見落とされがちな部分です。

たとえば2)の業務を行う者の募集をかけようとハローワークに求人の申し込みをしたときの話ですけど。

専用用紙に時間外労働時間を記入するんですが、一般的な基準と比較しあまりにも長時間に及ぶ場合(たとえば1月80時間、としましょうか)、「こんな時間外は認められませんよ。聞いたことない。違法でしょう」と、言われたりします。

でも、違法ではないんです。もちろん、きちんと36協定を締結し、届け出ていることが絶対条件ですが、可能なことは可能なんですよ。


もっとも、何の制限もないのか? というとそうではなくて、2)の場合には改善基準なる労働大臣の告示が適用されることになります。

このあたりは、実際に経験しないとわからないものです。



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13)割増賃金

 上記の36協定を締結し、時間外・休日労働をさせた場合、割増賃金の支払いが必要です。

 

 

割増率

備考

時間外

2割5分以上

 

休日

3割5分以上

 

深夜(午後10時から午前5時)

2割5分以上

 

時間外+深夜

5割以上

時間外がさらに延長されて、深夜になった場合のみ。最初から深夜業が予定されている時は、深夜の割り増しのみでよい。

時間外+休日

3割5分以上

 

時間外+休日+深夜

6割以上

 

 

Q1)

     36協定を締結せずに時間外、休日労働をさせた場合、労基法違反となります。それではその違法とされた部分についての時間外労働等についての賃金は? 

             


A1)
この場合でも、割増賃金の支払い義務は生じます。


Q2)

     では、所定労働時間を「7時間」と就業規則等で規定していた場合はどうなるのでしょうか?


A2)
上述したように法定労働時間1日あたり8時間です。しかし、事業所によっては午前9時から午後5時まで(休憩1時間)の所定労働時間とすることもあるでしょう。


この場合に、午後6時まで労働させたら? 所定労働時間は超えますが法定労働時間内には収まります。


この場合を「法内超勤」と呼んでいます。結論としては、残業1時間に対し割増賃金は発生しません。あくまでも法定労働時間である1日8時間を超えた場合に生じるのが割増賃金だからです。


それでは、この残業1時間について使用者は何の手当も要らないのでしょうか? そんなことはありません。この場合は、割増賃金は不要ですが、通常賃金の1時間分は残業代として支払い義務が生じます。



     注意点
深夜労働については、たとえそれが所定労働時間内の労働であったとしても、割増賃金は発生します。もっとも、就業規則等によって深夜の割増賃金も含めて所定賃金が定められていることが明らかな時は、別途割増賃金を支払う必要はありません。



 

       この割増賃金が支払われないという問題が多いです。そしてそれについて既述したように行政もより厳格な対策を打ち出してくるようですから、順法を意識した対応は必要でしょう。





14)年次有給休暇


要件


    
雇い入れの日から

   6ヶ月間の継続勤務+全労働日の8割以上の出勤

            

 継続し又は分割した10労働日に有給休暇を付与する


実際の付与日数

 

継続勤続年数

6箇月

1年6箇月

2年6箇月

3年6箇月

付与日数

10労働日

11

12

14

 

4年6箇月

5年6箇月

6年6箇月

 

16

18

20

 

・全労働日に含めないのは?



 1) 所定休日

2) 休日労働した日

3) 使用者の責めに帰すべき休業

4) 正当な争議行為で労働しなかった日

 

主として正社員に上記の有給休暇を付与する必要があることは理解されていると思います。


Q3)
では、パート等の所定労働日数が少ない社員に対して、有給休暇は付与する必要があるのでしょうか?

 

A3)

答えは「付与する」となります。

要件は次の通りです。


     週所定労働日数4日(若しくは年216日)以下
       
           +

     労働時間が1週間に30時間未満

 

ですから週1日の勤務者でも、有給休暇を付与する必要があります。下記に週4日と、週1日の場合の日数をまとめてみます。

 

 

週所定労働日数

1年間の所定労働日数

雇い入れ日から起算した継続勤務期間

0.5

1.5

2.5

3.5

4.5

5.5

6.5

4日

169216

7

10

12

13

15

1日

4872

1

2

2

2

3

3

3



     有給休暇を半日単位で付与する義務はありませんから、労働者が半日の有給休暇を求めたとしても与える必要はありません。ただし、与えることにしても違法性はありませんから付与することはできます。

     有給休暇の時効は2年間です。年内に消化し切れなかった日数は翌年に限り持ち越せます。


Q4)
では、最高で40日の有休休暇が未消化の労働者が退職を申出、その未消化の有給休暇を退職日までに消化すると申し出てきた場合、使用者はそれを拒絶できるでしょうか? 


A4)
「できません」


有給休暇は要件に該当すれば当然に発生する労働者の権利です。使用者は一定の場合にその時季を変更できるに過ぎません。しかも、この権利は退職後に使用する術がありません。ですから、労働者のそういった申し出に対し、使用者は拒否できません。



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15)就業規則等


さて、先ほどの退職間際の有給休暇の件など、人を雇用することによって様々な問題に直面します。

それに備え、「就業規則等」を作成することは経営を可能な限りスムーズに行うために必要不可欠なことです。そこで、労働基準法の最後に、就業規則等について簡単に述べておきます。

要件


 


・常時10人以上の労働者を使用する「事業場単位」
 (会社全体ではなく、ひとつの事業所ごとに人数を見る)
           
            

・就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届け出なければならない。(変更も同じ)


常時10人以上とは、例えば正社員が8人で、常態として使用しているパートタイマーが2人いれば、作成義務が生じる事業場ということです。

 

10人未満の場合は作成義務はありません。しかし、事業を行っていくのですから、事前に紛争に繋がる諸問題の芽を可能な限り摘んでおく意味でも、作成することを勧めます。

 

就業規則等には絶対的記載事項といって、必ず定める必要のあることが決められています。





絶対的必要記載事項


     始業、終業時刻、休憩時間、休日、休暇、終業時転換に関する事項

     賃金(臨時の分を除く)の決定、計算、支払方法、締切、支払いの時期、昇給に関する事項

     退職に関する事項(解雇の事由を含む)

 

以上がそうです。このほかに相対的記載事項(定める場合は就業規則等に記載する必要があるもの)があり、一般的なものとして「退職手当」(労働者の範囲、決定、計算、支払方法、支払い時期)などがあります。

・作成の手続

就業規則の作成時(変更の時も同様)

 






労働者の代表者の意見を聞かなければならない。そして、意見書を添付して届け出る。

 

労働者の代表者とは?

     その事業所の過半数で組織する労働組合があればその過半数労働組合と、なければ労働者の過半数代表者、ということです。


※ 留意点
あくまでも「意見を聞く」ということです。ですから「同意を得る」ことまでは求められていません。かりに反対されていたとしても、反対だ、という意見書を添えれば法的要件は満たしていることになります。


・就業規則で全てを網羅することは困難です。ですから「賃金規程」「退職金規程」といった別規程が定められる場合が多いです。この別規定と本来の就業規則は別々ではなく、それぞれをあわせたものが就業規則となりますから、別規程の作成、変更においても、手続は同じです。

     また、就業規則は常に法令に沿ったものに変更していくことが望まれます。ですから定期的に見直す必要があります。



     個別の労働条件を就業規則よりも低くした場合でも、その部分は無効となり、就業規則の基準が適用されます。ですから、パートなど正社員と分けておきたい社員を雇用した時は、「パート社員用の就業規則」などを定め、後々問題が起こらないようにしておくことです。


例えば、正社員用の就業規則しかなく、そこに「退職金に関する条文」があったとします。この例ですと、退職するパート社員が就業規則に沿って退職金の支給を請求してきた場合に、「パートに退職金なんて払わない」といっても通りません。


就業規則に定められた退職金を支払う義務を負ってしまいます。ですから、作成には充分な配慮が必要です。

また、既述しましたが、「解雇」については就業規則でできるだけ具体的に列挙しておく方が紛争に発展した場合有利に作用します。
もちろん、全てを見越す事は不可能ですが、事業内容にあわせ、就業規則に記載しておくことは、今後ますます重要なことになります。

 

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  たなか社会保険労務士事務所

   社会保険労務士/キャリア・コンサルタント

 田中 雅也


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