★ 就業規則に関する10個の会話

 

1.

 就業規則を作成する義務って、具体的にルール化されているの?

1.

はい。常態として、事業所単位で10人以上の労働者を雇用する使用者は、労働基準法第89条により就業規則を作成し、所轄労働基準監督署長に届出る必要があります。変更した場合も同様です。


Q2.

 書籍とかネットからのダウンロードとか、とりあえず届出ればいいんでしょ?

2.

 将来的にも、労働者からの苦情が一切発生しない、と確信できるのであれば、推奨はしませんがあえてそれはダメです、とまではいいません。


3.

 そんな断言はできないですよ。少し考えたいので、より具体的に話してください。

3.

 十人十色。ヒトもそうですが、ヒトの集合体である会社は個人のそれよりも複雑です。可能であるならば、御社の実態に沿ったものを作成すべきでしょう。従業員との間でこれまでに困ったことがなかったか? あるいは、業種的に対応に苦慮していることがあれば、その対応策を盛り込んでおくことで、将来的な争いを回避あるいは緩和できる可能性があります。

 いわば既製品とオーダーメードの違い。

但し、既製品で間に合う多くの物と違い、就業規則にはいわゆるサイズの表示がありません。従業員数10人なのに大企業向きのものを丸写しし、届出たばっかりに・・・ 

なんてこともあります。

 一旦作成し届出た就業規則を変更する場合、その変更が従業員にとって不利益であれば、労働契約法等により制限を受けることになります。

 

4.

 でもねぇ、実際ダウンロードすれば無料ですし。経費削減が経営上の重要課題である昨今、出来るだけ出費は抑えたい、というのが本音です。

4.

 確かにそうですね。費用面だけを考えるのであれば、断然ダウンロードをお勧めします。

 

5.

 なんだか投げやりな回答になってません?

5.

 いいえ。確かに、最近のものはよくできていますから。通常はそれでも問題はないでしょう。

でも、なぜ就業規則を作成するのですか? 労基法で規定されているから渋々? それだけが理由ですか? もしそうなら、(よくできた)ダウンロード版で十分です。

 そうではなく、就業規則の作成あるいは変更をきっかけに、より会社をよくしたい、誇りを持って皆に働いてほしい、と願うのであれば、御社の体にフィットしたモノを作るべきでしょう。

 

6.

 会社の体にフィットしたもの?

6.

 就業規則は、使用者が一方的に定めることができる会社のルールです。労基法上、過半数組合、それがなければ労働者の過半数代表者の意見を聞かなければなりませんが、同意を得ることまでは要求されていません。

 もちろん、無制限にルール化できるわけではありませんが、すごく魅力的だと思われませんか?

 

7.

 魅力的って、法的な会話にしては微妙に違和感のあるフレーズですね(苦笑)

7.

 確かに、適切ではないかもしれませんね。しかし、

あくまでも使用者側からみれば、という注釈つきですが、そう感じられても不思議じゃないと思うんです。

法律は当然立法府である国会が決めます。条例は地方議会が、とそれぞれ社会のためにルールを決めます。しかし、こと会社に関しては、就業規則という制限付きの枠内ではありますが、会社にそのルール作成権を付与しているのです。

 もちろん、法律・労働協約に抵触するものは禁止されていますが、その枠内に収まるのであれば、会社の実情を反映したものを作成しても構わないのです。

 参考判例(S27・7・4 第2小法廷 三井造船玉野製作所事件)

 

 就業規則は本来使用者の経営権の作用としてその一方的に定めうるところであって、このことはその変更についても異なるところがない。

 注1)

 就業規則は、大きく分けると労働条件と職場規律を明文化したものです。ここでいう一方的という言葉は、あくまでも「職場規律」の部分です。労働条件については、当然に労基法等労働者保護法に庇護されます。

 

8.

 会社の実情?

8.

 法に抵触するような就業規則の規定が無効になることは当然です。しかし、たとえば某大手不動産事務所から小規模なX不動産事務所へ転職してきたY氏。彼が某大手事務所ではこういったやり方で事務処理を行ってきた、とX事務所のやり方を取り入れようとせず、先輩社員のアドバイスも無視を続け、入社当初からX事務所の他のスタッフと折り合いが悪いとします。

 この場合、第三者的視点から見れば某大手事務所のやり方がより効率的であったとしても、Y氏はX事務所の方針に沿った業務処理方法でその労働力を提供すべきであり、従前のやり方に固執して事務所内で浮いた存在になっているのであれば、Y氏には協調性がない、といえます。

 仮にY氏に対して協調性不足を理由に懲戒処分を下すときに、その規定として

当事務所職員としての協調性に欠けるとき」

と規定していれば、当該条文を根拠に懲戒処分も可能になります。(単に協調性に欠けるとき、でも構いませんが、より強調する意味でこう規定する方がいいでしょう)

 

9.

 当事務所職員としての協調性?

9.

 社会通念上といった大きな枠ではなく、事例でいえば一不動産事務所という小さな世界でのみ通用するもの、ということです。もちろん、冒頭でも述べているように、違法なもの等、反社会的なものは論外です。

 あくまでも、合法的であり、その職場では普遍的とさえいえるもの、といったイメージですね。

 極端な例ですが、いわゆる変態、であることを売りにしている芸人がいますよね。そんな彼が経営する会社に入社したところ、そこは彼と同類の人間しかいない職場だったとしましょう。アナタは至極一般的な理性を持った方です。当然、合わないですよね? でも、少なくともその変態、なる者たちの行為が非合法ではなく、当該企業では逆に常識である、とするならば、協調性がないのはアンタの方だよ、という指摘が正しいことになり得るのです。

 

10.

 条文一つ一つに意味がある、言い換えれば仕掛けがあるってことですね?

10.

 全ての条文に仕掛けが施されている、というわけではありません。しかし、解雇事由にしても「その他上記に準ずる行為が生じたとき」といった包括条項があれば大丈夫、とはとてもいえません。可能な限り、考えつく限り解雇事由を規定する、といったことが重要になってきています。

 そのためにも、御社の実情に合った規定で作成することです。また、他社での事例など、レアな規定も盛り込んでおけば、もしも、の場合に役立つこともあるでしょう。

 書籍やダウンロードで簡単に入手できるものにも素晴らしいものがあるとは思いますが、少なくとも御社の実情を加味しているか? といえば、NOとなります。

 今後集団的、個別的を問わず労使紛争がますます増加・激化する可能性が高いといわれている時代です。事業者としては、そこまで考察するべきでしょう。

 そこまで考えた上で、やはり当社はダウンロードしたものでいい、といわれるのであれば、その考えを否定するつもりはありません。