★ ちょっと得する就業規則Q&A

 

1.   就業規則作成相談時に案外多い問い合わせが
「年次有給休暇に関する規定は省いてもらえませんか?」
というもの。

 就業規則作成において、必ず定めなければならない(これを、絶対的必要記載事項といいます)項目の中に休暇に関するものが含まれています。(下記参照)
年次有給休暇はその名の通り休暇に関する事項です。当然、省略することはできません。

【 絶対的必要記載事項 】

1)       始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交代に就業させる場合においては就業時転換に関する事項。

2)       賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締め切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項

3)       退職に関する事項(解雇の事由を含む)

 

2.   就業規則と法令等の関係は下図の通りです。

では、次のような対応は可能でしょうか?

 パートタイマー就業規則あるいはパートタイマー賃金規程にて、「入社1年以上経過した者は、毎年41日に50円昇給させる」と定めていたとしましょう。

しかし、景気は落ち込み、当該事業所も売り上げ・利益とも大幅に減少し、とても昇給などできません。近隣の同業他社などここ数年1円の昇給もないと聞きます。

そこで、悪化する一方の経営状況を理由に今年は昇給停止を決定しました。とりあえず今年だけかもしれないし、とパートタイマー就業規則あるいはパートタイマー賃金規程の変更はしていません。

  上記のように経営危機にあるとか、同業者もみんなそうだから、といった事由で、就業規則等の変更もせずに一方的に昇給をストップさせることはできません。ストップは無効となります。

 

  50円は高すぎるにしても、5円・10円なら可能性はあるのではないでしょうか? 

 特に募集してもなかなか求職者が集まらない対策の一環として、過去にこのような規定を就業規則等に盛り込んでいることは考えられます。

 一旦規定してしまうと、事由はどうあれ会社側の一存のみでそれを実行しない、といった対応はできません。

【 就業規則と法令等の効力順位 】

 

 法令(強行法規)> 労働協約 > 就業規則 > 労働契約

 

3.   就業規則は作成した。しかし、年次有給休暇について説明するもの否だし、従業員にはとりあえず「作りましたよ」とだけ伝え、各作業場に掲示しておいた。予想通り、文字だらけの就業規則を熱心に見る従業員は皆無だった。さて、当該就業規則の効力はどうなるでしょう?

  意見聴取義務(労基法第89条)違反、届出義務(同法第90条)違反(30万円以下の罰金。労基法第120条)はともかく、就業規則としての効力は、従業員に対して実質的な周知があったと判断されるならば、当該就業規則は有効と考えられます。

【 参考判例 】

:インフォ―マテック事件 東京地裁平成19.11.29 

  意見聴取せず、所轄労基署長にも届出ていない退職金規程も、取締役より全従業員に周知された段階で就業規則として成立した、とする。

 

:コクヨ事件 大阪高裁 昭和41.1.20 (届出義務違反)

:山形新聞事件 山形地裁 昭和24.7.16 (届出義務違反)

:三井造船玉野製作所事件 最高裁 昭27.7.4 (意見聴取手続き違反)
など

 

4.   上記2のパートタイマー就業規則等の作成・変更の場合でも、労基法第89条の意見聴取義務が課されますが、パートタイマーに関する就業規則なのだから、当該意見聴取の相手方は当然にパートタイマーの代表者になるのでしょうか?

  例えば、某事業所に正社員以外にもパートタイマーやアルバイト、契約社員、定年後再雇用の嘱託社員等々が在籍し、各々の雇用形態別に就業規則が作成されている場合、当該事業所の就業規則はそれぞれの就業規則を合わせたもの、とされます。

  個々の就業規則はあくまでも当該事業所の就業規則の一部にすぎない、のです。

 (昭和2444 基発410号)

 

  ですから、労基法第89条にいう意見聴取の相手方は、それがパートタイマー就業規則であろうと、嘱託社員就業規則であろうと、その事業所の過半数労組なければ過半数代表者の意見を聴くことが必要です。

  ただし、パートタイム労働法第7条では、努力義務としてパートタイマーといった短時間労働者の意見を聴くように努めるものとする、とされていますから、当該就業規則の当事者である者の意見を聴取することは、後々の紛争を抑止するためにも、意味のあることだと言えます。

 【 余談 】

  意見聴取。漢字のごとく「聴く」です。日常的に使う「聞く」ではありません。

 この「聴く」。カウンセリングの世界では、心で聴くこと、とされ、“聞く”とは明確に区別されています。労基法がそういった趣旨で規定しているか否かは知りませんが、法律上の義務を履行するために、ただのお飾りとして就業規則を定めとけばいいや、ではなく、よりよい職場環境を整え、労使共に同じものを目指し、達成し、共に幸福になろう、というのであれば、意見聴取の際は「心で聴く」ことを心がけてもいいのではないでしょうか。

 

5.   就業規則は作りました。そのおり、従業員過半数代表者の意見も聴き、所轄労基署長にも届出ました。でも、周知はしていません。なぜなら、権利権利とうるさい従業員がいるのでね? たいして仕事もできんくせに、です。もし周知なんかしたら、あいつなら持ち出してコピーしかねない。そして、権利の部分だけ声高に叫ぶのは目に見えている。だから今後も周知する気はないです。いけませんか?

 参考判例 : フジ興産事件 最高裁 平成15.10.10

 

  「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことが必要。そして、就業規則が法的規範としての性質を有し、拘束力を生じるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることが必要。」

 

  ただし、周知方法についての規定、労基法第1061項所定の周知方法を欠いたとしても、労基法第120条の罰則適用はともかく、就業規則としての効力までは否定されない、ともいわれています。(朝日新聞小倉支店事件 大法廷判決 昭27.10.22

 

  周知方法云々ではなく、それ以前の問題として、まったく周知していない、といった事実は、就業規則を定めていないのと同じでしょう。これではいざ労使問題が噴出した場合、事態を解決あるいは会社にとって有利にことを運ぶ可能性を放棄した、と言わざるを得ません。

 

  権利を主張するのならば、それに付随する義務の存在をしっかりと把握し、権利と義務を絡めて考察するようにすべきです。少なくとも、義務を果たしておけば、恐れることはありません。

 【 余談 】

  就業規則の持ち出しや複写を就業規則で禁止することは可能であると考えます。書店に並んでいるひな形の就業規則ではありません。当該会社独自の就業規則であるならば、賃金条項など会社の機密事項もふんだんに盛り込まれています。仮にひな形丸写し版であったとしても、会社以外の人に自社の賃金制度内容を知られたくはないでしょう。

  「いや、自分用に持っておくだけです」

 よしんば、会社がその申し出を許可するのであればこれ以上口出しする気はありませんが、会社が許可する可能性は低く、会社に所有権が存在する就業規則を、従業員であるからといって許可なく社外へ持ち出したり、複写することを禁止する、と明確に就業規則に規定しておけばいいのです。もちろん、法律があれば誰もそれに抵触しない、ということは幻想ですから、規定違反に対しての懲戒処分も盛り込み、違反があった場合には適宜処分することです。